そして薬の補充の日、イルカは薬と、そして箱を持ってカカシの家へと向かっていた。
そしてこのあいだと同じように戸をノックした。中からどうぞ、というカカシの声がしてイルカは遠慮なく部屋にあがらせてもらった。
中に入るとカカシは機嫌よくイルカを迎え入れてくれた。

「やあやあ、お待ちしてましたよ。さあ上がって下さい。」

とカカシはイルカに椅子を勧めた。イルカはテーブルの上にケーキと薬を置いた。

「イルカ先生は何か飲まれます?俺はコーヒー派なんですが他にも飲み物として紅茶と水があるます。酒は昼間なんで遠慮して下さいね。」

カカシに言われてイルカはじゃあ紅茶を、と言いそうになって違うだろ、と自分にツッコミを入れた。

「カカシ先生、あなた怪我人なんですから大人しくしていて下さいよ。飲み物なんていりませんから。」

「そうですか?でもケーキに飲み物がないと辛くないですか?あ、イルカ先生はかなりの甘党ですか?そういえば一年前にあげた飴も何の迷いもなく食べましたもんね。それ程甘いものには目がないとか?そう言えば血糖値は平均並ですか?」

心配そうな顔をされてイルカはいきり立った。

「余計なお世話ですっ、正常値をキープしてますよっ!と、言うか、ケーキ、俺もご一緒していいんですか?」

「その箱の大きさから言って中身を1人で食えと言う方が残酷だと思いませんか?」

カカシに言われてイルカは確かに、と思った。作ってみたはいいものの、分量が多すぎてケーキが大きくなりすぎた感は否めない。

「ご一緒させていただきます。」

「はいどうぞー。そう言えば皿と包丁も用意しないといけないですね。」

カカシは食器棚からかちゃかちゃと取り出してテーブルに置いていく。なんとなくこういう雰囲気はわくわくしてしまう。まるでお誕生会のようだとイルカは微笑ましく思った。

「まるでお誕生会みいですね。」

口に出して言えばカカシは頷いた。

「まったくその通りです。今日は俺の誕生日なんで。」

テーブルの上に皿と包丁を置いてカカシが淡々と言った。イルカは勢いよく立ち上がった。勢いが良すぎて椅子が後ろに倒れてしまった。

「今、なんとおっしゃいました?」

「はあ、誕生日なんですよ。今日が。」

「あんたそれはちょっとあんまりじゃないか?俺は一年前、どんだけ苦労してあんたの誕生日を探ったか。」

イルカは一年前の苦労の日々を思い出した。あんなにがんばったと言うのに収穫は無く、教えてやるべきナルトは今や自来也と共に修行の旅の途中だ。

「まあ、そういう解釈もできるでしょうが。俺の誕生日です、俺が一番の所有権を振りかざしてもいいと思いませんか?」

誕生日に所有権も何もあるわけないだろという言葉を飲み込んでイルカは椅子に座り直した。

「もう、いいです。ケーキ食ったらすぐ帰ります。早く切り分けて下さい。」

「おや、飲み物の希望をまだ聞いてなかったんですが。」

「コーヒーでいいです、あなたと一緒のっ、」

「はあ、そうですか。」

カカシはコーヒーを入れに台所へと戻っていった。そしてすぐに戻ってくるとイルカの前と自分の席にそれぞれ置いた。

「では箱のふたを取っても?」

「ええ、どうぞ。言っておきますが俺は菓子作りなんてほとんどしたことないんですからね、味とか形とかはまったく保証しませんよ?」

言われてカカシは嬉しそうに笑った。そして蓋を開けて出てきたもの、それは綺麗に円形をしたケーキだった。ちゃんと膨らんでいるしクリームも角が立っている。フルーツに至ってはちゃんと生のものを、そして季節のものをふんだんに、とはいかないまでもそれなりに丁寧に飾り付けられている。女の子でもここまで作るのは大変だろうな、と思うほどのできばえだった。

「嘘つきですね、すごい綺麗に作られているじゃないですか。」

カカシの言葉にイルカは少し照れたようだった。

「え、そうですか?喜んで頂けたのなら作って良かったです。」

「ははは、実はもっと不格好なケーキを思い描いてたんですけどね。」

減らず口め、と思いつつ、男が作ってくるんだから不格好かも、と思われていても仕方ないか、とイルカは肩を落とした。もう、ぬか喜びはすまい。
カカシはさっさと切り分けていく。そしてイルカの分とカカシの分と分けてそれぞれの前に置いた。

「さ、いただきましょう。」

カカシはいただきます、と言って早速一口食べた。

「うーん、やっぱり包丁で切り分けたときも思いましたが普通にふわふわしててちゃんとおいしいですねえ。ちょっとがっかりです。」

おいしいと言いつつも食べてみてからがっかりと言われて、それまで黙っていたイルカはぶるぶると震えだした。そして椅子から立ち上がって喚きだした。

「あんたっ、あんたなあっ、いい加減にしろよっ!なんだよそれ、あんたがケーキがいいって言うから作ってきたんだろうっ!既製品は嫌だって言うからわざわざ慣れないお菓子を寝る間も惜しんで作ってきたのにそんなこと言われてはいそうですかと頷けるかっ、馬鹿やろうっ!」

イルカはもう我慢の限界だった。相手が上忍だとか元生徒の上司だとかそんなことはもう関係ない。この男がもうさっぱり理解できない。どうしろって言うんだっ。涙目になりながら詰める様はまさに窮鼠猫を噛むと言ったところか。

「なんなんだよその言いぐさ、不格好でまずいものを作ってこなけりゃならなかったのか?そんなん知るかぼけっ!」

一生懸命作ったのに、ケーキが食べたいと言うから、カカシの喜ぶ顔を見たいと思ったから、これがきっかけで少しは近づけるかと思ったのに、心を開いてくれるかと思っていたのに、ちくしょう。

「泣かないでくださいよ。」

カカシの言葉にイルカは初めて自分が涙を流しているのに気が付いた。悔し涙だった。

「これは、これは涙なんかじゃねえよっ。」

「じゃあなんなんですか?」

「心の汗だっ!!」

明らかに嘘である。
カカシははあ、とため息を吐いた。びくりと体を竦ませるイルカ。

「俺が悪かったです。今回は確かに俺が言いすぎました。俺の好きだった人が誕生日に不格好なケーキを焼いてくれたことがあるので、あなたも同じようなケーキを作るかなと思って頼んだんです。」

イルカは驚いた。カカシが何かまともな事を言っている。

「でももう吹っ切れたと言うか、俺も大概馬鹿でしたね。失恋だって分かってるのに。」

「ほ、ほんとに馬鹿ですよ。自分勝手すぎます。」

「うん、その通りでしたね。今までごめんなさい。」

にこりと笑ったカカシはケーキを食べておいしいんですよね、としみじみ言いながら再び食べ始めた。
イルカはぐいっと涙の跡を拭うと椅子に座って切り分けられた自分の作ったケーキを食べた。
カカシが謝ってくれたのなら、許そう。好きだった人とは紅の言っていた待ち続けているという人だろうか。随分と固執していると聞いていたが、吹っ切れたのか。その要因を作ってしまったのが自分と言うのがなんとなく申し訳ないような気持ちになったが、カカシは至って機嫌良さそうにケーキを食べている。

「あの、吹っ切ったんですか?失恋。本当はずっと待ち続けていたんでしょ?」

「え、なんで知ってんですか?って、ああ、紅か。前に一緒に飲んでた時に自白剤を使われたことがありましたっけねえ。」

「じ、じはっ、」

紅先生、そんなことしてたんですか...。飲みに誘われたけど行かなくて本当に良かった。と自分に自白剤を使われるかどうかも分からないのにそう思ってほっとしたイルカだった。

「その人はねえ、うーん。里にいるっちゃいますが二度と会えないでしょうしね。」

「会いに来ないのならば会いに行けばいいんじゃないですか?約束したんでしょう?」

「そういうわけにもいかないんですよ、その人二度と俺のこと思い出せない術かけられてますから。」

「そんな、そんなことって、」

禁術扱いなんじゃないか、それ。もしかして三代目が知っていたって言うのはそういう理由からだろうか。ここまでひねくれたのはそういった過去があったからなのか。なんとなくそういった悲しい事情があると思えば今までの悪行もかわいいいたずらに思えてきてしまうから不思議だ。こうやって謝ってもくれたし、これからはいい友達として仲良くできるかな、などとイルカは少し寛大な気持ちになった。

「あ、そうだ。イルカ先生、俺の写輪眼を見てくださいね。」

カカシは閉じていた右目を開いた。イルカは素直にその目を見た。オタマジャクシがぐるぐると回っている。ああ、写輪眼を発動させているんだな、でもなんで味方に使ってんだ?と思考回路が繋がって慌ててイルカは目をそらした。

「ははは、今更無駄ですよ。もう術はかけました。」

「なっ、なにしたんですかっ。こういう嫌がらせするの、もうやめて下さいよっ。」

さっきまで寛大になろうとしていた心がはじけて消えてイルカだった。

「まあまあ、別にイルカ先生を下僕にするとかいうわけじゃないですから。さ、試してみましょうか。イルカ先生、今日は何日ですか?」

「え、は?9月15日でしょう?」

「正解です。では俺の誕生日は?」

「そんなのう、む、ぐぐぐ、う゛う゛う゛っ、ああああっ。カカシ先生っ、なにしたんですかっ!!」

唐突に自分の口が自由にならなくなり、イルカは顔を真っ赤にしてカカシに詰め寄った。

「俺の誕生日を他言しないようにしました。」

「どうしてそんなことをする必要があるんですか?もう失恋は吹っ切ったんでしょう?だったら誰に知られたっていいじゃないですか。」

「残念ながらダメです。」

「何故ですか!」

「それはきっと、来年の俺の誕生日ごろには理解できるようになりますよ。」

にこりと笑ってカカシはそう言うと2つ目のケーキを皿に取り入れたのだった。
イルカは脱力した。この人の過去を知った所でこの人が理解できたかと言えば答えはNOだ。もう本当に諦めよう。この人の言動にいちいち振り回されていたんじゃ命がいくつあったって足りやしない。
イルカはおいしそうにケーキを食べてくれるカカシを見て苦笑を浮かべながら言ったのだった。

「ま、お誕生日おめでとうございます。カカシ先生。」

一年後、何の因果か再びカカシの誕生祝いをするはめになるイルカだったが、それはまた別の話。

 
おわり


はい、と、いうわけでお疲れ様でした!!
な、なんて暗さだ、本当にカカシ先生を祝おうという気持ちがあるのか甚だ疑問を感じざるをえないこの内容。
そしてそしてなんかラブ、少なくない?と思った方、ええ、私もそう思います。カカシ先生がまったくいい思いをしてない誕生日話なんて、
哀れでなりません!(書いた本人が言うなよっ!
そんなわけで後日談を書きました。本文最後にあった別の話という設定ですよ。
ラブ、少しは入ってると、いいな☆
や、本当はこの作品もっと明るくする予定だったんですよいやまじで!!
リターナーって映画があるんですけど、それを少しいじった感じの割りと明るめのさ!!
うん、予定は未定...orz
でも実はなんだか難産だったんですよ、これ。終わり方が最後まで決まらなくて3.4回、最後だけ書き直しましたもの!ってそんな裏話いらんがね!!
と、言うわけで口直しになるか分かりませんが別な話もよかったら覗いてやってくださな♪
ちなみに題名はくるりの曲からです〜。
ここまで読んで下さってありかどうございましたw